美しさ、安全性、作りやすさの両立。
デザイナーと設計者、さらには製造者が対立する、製品開発における永遠のジレンマです。
プロダクトデザインの現場では、「見た目(意匠)にこだわりたい」「でも安全でちゃんと使えるものを作らなきゃいけない」「さらには誰でも作りやすいものにしてほしい」というジレンマに多くの人が直面します。
美しさ、使いやすさ、作りやすさ、一体どれを犠牲にするべきでしょうか?

その答えは、どれも犠牲にしてはならない。
デザインから設計、製造、更にはエンドユーザーまで、すべての人々が幸せになる事ができる製品こそが本当に優れたプロダクトデザインなんだ。
更に、これからの社会は廃棄のことまで考えてデザインしなければ、企業として存続していくことは難しい。
この記事では、「意匠と機能をどうやって両立するのか?」という視点から、プロダクトデザインにおける考え方と実践のヒントをご紹介します。
1. デザイナーと設計者の対立はなぜ起きるのか?
プロダクトデザインの現場では、以下のような葛藤がよく見られます。
• デザイナー:
「絶対にこの美しいラインを出したい。このエッジが必要だ。絶対に抜き勾配をつけたくない。」
• 設計者:
「この意匠じゃ物理的に加工できない。危険なエッジだ。コストが割に合わない。」
このような状況は、「見た目」重視と「使いやすさ(機能)・作りやすさ・コスト」重視が衝突するために起きます。
両者のバランスを取ることは、プロダクトデザイナーや設計者における最も重要なスキルの一つです。

デザイナーと設計者が衝突するのは、「どちらかが悪いから」ではありません。
むしろ、両方が「ユーザーのために良いものを作りたい」と思っている証拠です。
だからこそ大切なのは、次のような姿勢なのです。
- 常にユーザーの立場になって考える。
- できるだけ早い段階で協議を始める。(後戻りを減らす)
- 相手の視点や目的を理解する。
2. デザイナーと設計者の役割
まずは、デザイナーと設計者それぞれの役割を明確にしておきましょう。
デザイナーと設計者は、製品開発において異なる視点から同じゴールを目指すパートナーです。
デザイナーは「製品がどう見えるか」「どんな印象を与えるか」といった感性やブランド価値を形にします。
一方で設計者は「どう作るか」「どう使うか」といった機能性や製造性、耐久性を担います。
両者の連携が取れてはじめて、美しく、かつ使いやすい製品が生まれます。
それぞれの役割を理解尊重し、早い段階からの協業が成功の鍵です。
デザイナーが生み出す意匠性と設計者が生み出す機能性、どちらかが欠けても、魅力的で売れる製品にはなりません。
意匠性と機能性の両立は「製品価値の最大化」につながるのです。

一般的にデザイナーは見た目や、数値化しにくい感性的な要素にこだわりが強すぎる傾向があり、対して設計者は見た目よりも数字で判断できる事柄や、明確な機能性にこだわるタイプが多いです。
どちらが良い悪いではなく、思考タイプの違いから生まれるすれ違いがデザイナーと設計者の対立を生み出す原因のひとつですね。
3. 機能と意匠をつなぐ「ユーザー目線」
機能と意匠が衝突したときに、判断の軸となるのが「ユーザー目線での優先順位付け」です。
どちらが正しいかではなく、「誰のための製品か?」「ユーザーにとって何が最も快適か、価値があるか、何が一番幸せか?」を基準に考えることが重要です。
たとえば見た目を優先した結果、危険が生じたり、操作が直感的でなくなったりすれば本末転倒です。
逆に機能や安全性を優先しすぎて美しさが損なわれれば、手に取りたくなる魅力を失います。
製作者の都合を優先するのではなく、ユーザーにとって重要なポイントの優先順位を明確にすることで、機能と意匠のバランスを判断しやすくなります。

最終的にその製品を使うユーザーの為を想うとどうするべきなのか。
判断が難しい局面になればなるほど初心に立ち返り、ユーザーをより安心させ、幸せにできる解決策を見つけ出すことを心がけましょう。
4. 意匠と機能のバランスを取る具体的アプローチ
① 早い段階からチームで協議する
デザイナーと設計者がそれぞれの立場で完成形を目指すと、後半で衝突しがちです。
企画や初期設計の段階から意匠・構造の両者が協議することで、無理のないバランスを探りながら開発を進めることができ、手戻りや仕様変更のリスクも減らせます。
② 会社として何が最も重要かを明確にしておく
プロダクトにおいて何を最優先するかは企業によって異なります。
コストか、品質か、ブランド体験か。
判断基準が社内で共有されていれば、意匠と機能の意見がぶつかった際にも、ぶれずに方向性を決めることができ、意思決定も早くなります。
③ 実際にプロトタイプを使用してもらう
外観と使い心地のバランスを検証するには、実際のプロトタイプをユーザーに使ってもらうのが最も効果的です。
手に取った瞬間の印象や操作性、迷いの有無など、デザイン画では見えないリアルな反応を得ることで、意匠と機能の調整ポイントが明確になります。

チームとして、開発の初期段階から様々な意見を交わしておく事は、キミが想像しているよりもずっと大切なこと。
意見を交わすタイミングが早いほど、頻度が多いほど、お互いの思い込みを減らし、皆で作り上げているという「強い一体感」が生まれてくる。
柔軟で良いアイディアを生み出すためには、チームメンバー全員の壁を取り除く必要がある。
この一体感は、数値化することが難しいけど、良いプロダクトを生み出すためには欠かせない重要な要素なんだ。
5. デザイナーと設計者がお互いを理解するために必要な心得
デザイナーと設計者は、異なる専門性を持ちながら一つの製品をつくる素晴らしいパートナーです。
デザイナーは感性やブランド価値を表現し、設計者は機能性や製造の現実を支えます。
両者が衝突するのは当然とも言えますが、重要なのは「相手もユーザーのために本気で考えている」と理解することです。
つまり、デザイナーと設計者の最終目的は同じです。
自分の正しさを主張する前に、相手の制約や狙いを知る努力が必要です。
また、互いの専門領域に少しずつ踏み込む姿勢も、信頼関係を築くうえで効果的です。
たとえばデザイナーが製造現場を見学したり、設計者がブランドの世界観を学んだりすることは、実際の現場でも大きな前進につながります。
共通のゴールは「より良い製品をユーザーに届けること」。
そのためには、お互いを理解し合い、共に歩む姿勢が欠かせません。

全てはユーザーのため。
デザイナーと設計者、どちらかが欠けても良い製品は生み出せません。
稀に、デザインと設計を両方手掛けるスーパーマンもいらっしゃいます。
そんなスーパーマンは、一人で抱え込んでしまいがちですが、生産現場の方々や、ユーザーと直接会話し、常に公平な立場で考えることを忘れないようにしてくださいね。
6. まとめ:美しさ・機能・作りやすさの三位一体を目指して
プロダクトデザインにおいて、美しさ・機能・作りやすさを同時に成立させることは簡単なことではありません。
デザイナーは感性やブランドを重視し、設計者は機能性と現実的な製造要件を重んじます。
それぞれが専門性を持ち、ユーザーにとって良い製品を届けたいという想いを抱えているからこそ、意見のぶつかり合いが起こるのです。
しかし、その衝突は「より良い製品を生み出すための前向きな対話」のチャンスでもあります。
大切なのは、早期からの協議、ユーザー目線での優先順位付け、互いの立場や目的への理解、そして柔軟なチーム連携です。
製品づくりは一人で完結するものではなく、多くの立場の人々の協力によって実現します。
だからこそ、相手の専門性を尊重し、ユーザーの幸せを共通のゴールとして共有し続けることが、良いプロダクトを生むための何よりの鍵となるのです。