この記事で分かること
- 荷重たわみ温度(HDT)の定義と、この数値が実際に測っているもの
- HDTとガラス転移温度(Tg)の違い、なぜ結晶性樹脂では大きく離れるのか
- 材料別のHDT・Tg一覧と、荷重条件によって値が変わる理由
- 「HDT=使用できる上限温度」と読んではいけない理由
材料カタログに「HDT 240℃」と書かれていたとします。
素人目に見ると、この部品は240℃まで使える、と読みたくなるところです。
完全に間違った理解ではありませんが、この読み方ではHDTを正しく理解しているとは言えません。
HDTは、決められた荷重を、決められた形の試験片に、決められた速度で温度を上げながらかけたとき、決められたたわみ量に達した温度です。 実際の製品が置かれる状況——長時間の使用、繰り返しの加熱冷却、薬品や紫外線——は、この試験には一切含まれていないのです。
さらに厄介なことに、HDTには複数の荷重条件があり、どれで測ったかによって値が大きく変わります。 PA66(ナイロン66)の無充填グレードなら、条件の違いだけで100℃以上の差が出ることもあります。
つまりHDTは、材料同士を同じ物差しで比べるための数値です。 使用温度の保証ではありません。 ここを取り違えたまま材料を選ぶと、量産後に「熱で変形する」という形で表面化する可能性があります。

ついつい材料が耐えうる使用温度と勘違いしてしまいがちな、荷重たわみ温度(HDT)
使用環境によっては致命的な選定ミスを起こしてしまう危険をはらんでいます。
実務で間違った使い方をしないように、正しく理解していきましょう。
荷重たわみ温度(HDT)とは
定義と試験方法
荷重たわみ温度は、一定の曲げ応力をかけた試験片を加熱していき、規定のたわみ量に達したときの温度です。
英語の Heat Deflection Temperature から HDT と略されます。 DTUL(Deflection Temperature Under Load)と表記されることもあります。 古い資料では「熱変形温度」と呼ばれていますが、JIS K 7191では「荷重たわみ温度」が正式名称となっています。
試験の流れはシンプルです。
- 短冊状の試験片を2点で支え、中央に荷重をかける(3点曲げ)
- 試験片ごと油浴などに沈め、**毎分2℃**の速度で温度を上げていく
- 中央のたわみが規定値に達した瞬間の温度を読む
温度が上がると樹脂は柔らかくなり、同じ荷重でもたわみが増えます。 そのたわみが基準値に届いた温度が、その材料のHDTです。


要するに、樹脂の棒にオモリをのせて、環境温度をじわじわ温めていく試験ってこと。
どのくらいの温度で、へにょっと曲がりはじめるかを見ています。
非常にシンプルで分かりやすい試験ですが、シンプルが故に条件が変われば結果もガラリと変わってしまいます。
荷重条件で値が大きく変わる
ここが最も誤解されやすい部分です。
ISO 75(およびこれに整合するJIS K 7191)では、試験荷重として3種類の条件が規定されています。
| 条件 | 曲げ応力 | 位置づけ | 主な用途 |
|---|---|---|---|
| A法 | 1.80 MPa | 高荷重 | 構造部品の比較。厳しい側の値 |
| B法 | 0.45 MPa | 低荷重 | 荷重の小さい部品の比較。甘い側の値 |
| C法 | 8.00 MPa | 超高荷重 | スーパーエンプラなど高耐熱材料の比較 |
このうち、一般的な材料カタログに載っているのはA法とB法の値です。 C法は、A法でも差がつかないほど耐熱性の高い材料を比較するための条件なので、汎用材やエンジニアリングプラスチックの資料で目にする機会はあまり多くありません。
同じ材料でも、A法とB法では値がまったく違います。 特に結晶性樹脂では乖離が大きく、PA66の無充填グレードなら、A法で70〜90℃前後、B法で180〜235℃前後といった開きが出ます。
カタログの数値を比べるときは、荷重条件が揃っているかを最初に確認してください。 条件を確認せずに「こちらの材料のほうが耐熱性が高い」と判断すると、実際は全く逆の結果であることがあるので注意してください。
もうひとつ、規格の違いにも注意が必要です。
| 規格 | 荷重条件 | 試験片・姿勢・スパン | 判定たわみ量 |
|---|---|---|---|
| ISO 75/JIS K 7191 | 3種類(1.80/0.45/8.00 MPa) | 80×10×4mm、フラットワイズ、スパン64mm | 0.34mm(曲げひずみの増加0.2%相当) |
| ASTM D648 | 2種類(1.82/0.455 MPa) | 127×13mm系、エッジワイズ、スパン約100mm | 0.25mm |
荷重条件の数だけでなく、試験片の姿勢もスパンも判定たわみ量も違います。 そのため、ISO/JIS値とASTM値は直接比較できません。 海外メーカーの資料と国内メーカーの資料を並べるときは、どちらの規格かをきちんと確認しておきましょう。
ガラス転移温度(Tg)とは
Tgは、非晶(結晶になっていない)領域の分子鎖が動き出す温度です。
この温度を境に、樹脂は硬いガラス状態からゴム状態へと変化します。 弾性率が大きく下がり、熱膨張率が上がり、寸法も変わります。 物性が「なだらかに変化する」のではなく、狭い温度域で急に変わるのが特徴です。
Tgの詳しい説明はこちらの記事を参考にしてください。
この記事で押さえておきたいのは次の1点です。
Tgは材料の内部で起きる変化を示す温度、HDTは荷重をかけたときの実際の変形を示す温度。 測っているものが違います。

Tgは「分子が身動きを始める温度」
HDTは「実際に曲がってしまう温度」
前者は材料の中身の話。
後者は実際に部品として使えそうかどうかを判断する一つの指標になります。
どちらも耐熱指標のひとつですが、見ているポイントが違うと覚えておきましょう。
HDTとTgの違い:なぜ結晶性樹脂では大きく離れるのか
非晶性樹脂と結晶性樹脂で、HDTとTgの関係はまったく異なります。
非晶性樹脂:HDTはTgのすぐ下に来る
PC、ABS、PS、PMMAといった非晶性樹脂には、結晶がありません。 分子鎖が絡み合ったまま固まっているだけです。
そのためTgを超えると、材料を支えるものが何も残りません。 弾性率が一気に落ち、荷重に耐えられなくなります。
結果として、HDTはTgより10〜20℃程度低いあたりに来ます。 たとえばPCなら、Tgが145〜150℃前後、HDT(1.8MPa)が125〜135℃前後です。
非晶性樹脂では、Tgが実質的な使用上限を決めていると考えて差し支えありません。
結晶性樹脂:Tgを超えても形を保つ
PP、POM、PA、PBTといった結晶性樹脂では、事情が変わります。
これらの材料のTgは、意外なほど低い位置にあります。 PPのTgは氷点下、POMも氷点下です。 つまり、室温ですでにTgを超えた状態で使われています。
それでも形が保てるのは、全体が完全なガラス状態ではなく、結晶部分が骨格として残っているからです。 非晶部分が柔らかくなっても、結晶が構造を支え続けます。
そのため結晶性樹脂のHDTは、Tgよりはるかに高く、融点(Tm)に近い側で決まります。 結晶が溶けはじめて初めて、支えを失って大きくたわむわけです。

鉄筋コンクリートを想像してみてください。
結晶が鉄筋、非晶部分がコンクリートのようなもの。
コンクリートが少しくらい柔らかくなっても、鉄筋が入っていれば形は崩れません。
結晶性樹脂が室温でTgを超えているのに平気なのは、この鉄筋があるからなんです。

材料別のHDT・Tg一覧
以下は無充填グレードについて、一般的に示される範囲です。
非晶性樹脂
| 材料 | Tg | HDT(1.8MPa)A法 | HDT(0.45MPa)B法 |
|---|---|---|---|
| PS(ポリスチレン) | 90〜100℃ | 70〜85℃ | 80〜95℃ |
| ABS | 100〜110℃ | 80〜95℃ | 90〜105℃ |
| PMMA(アクリル) | 100〜105℃ | 85〜100℃ | 95〜105℃ |
| PC(ポリカーボネート) | 145〜150℃ | 125〜135℃ | 135〜143℃ |
| 変性PPE | 140〜210℃ | 100〜140℃ | 110〜150℃ |
A法とB法の差が10℃程度に収まっている点に注目してください。
非晶性樹脂では、荷重を軽くしても粘れる温度域があまり広がりません。
結晶性樹脂
| 材料 | Tg | 融点(Tm) | HDT(1.8MPa)A法 | HDT(0.45MPa)B法 |
|---|---|---|---|---|
| PP | −10〜0℃ | 160〜170℃ | 50〜65℃ | 80〜105℃ |
| HDPE | 約−120℃ | 130〜135℃ | 40〜50℃ | 60〜80℃ |
| POM | −60〜−50℃ | 165〜175℃ | 90〜110℃ | 150〜165℃ |
| PA6 | 約50℃(乾燥時) | 約220℃ | 55〜80℃ | 140〜180℃ |
| PA66 | 約70℃(乾燥時) | 約260℃ | 70〜90℃ | 180〜235℃ |
| PBT | 約50℃ | 220〜225℃ | 50〜65℃ | 150〜180℃ |
| PET | 70〜80℃ | 250〜260℃ | 65〜80℃ | 結晶化度で大きく変動 |
| PPS | 約90℃ | 約280℃ | 100〜110℃ | 200℃以上 |
A法とB法の差が、非晶性樹脂とは比較にならないほど大きくなっています。 PA66なら100℃以上、PBTでも100℃前後の開きです。
この差の大きさこそが、荷重条件を確認せずに数値を比べてはいけない理由です。
数値はあくまで一般的な目安です。 実際の設計では、必ず使用グレードの技術データシートで確認してください。 同じ材料名でも、グレードや添加剤によって値は変わります。
ガラス繊維(GF)入りのHDT
ガラス繊維を入れると、HDTは上がります。
ただし、上がり方が非晶性と結晶性でまったく違います。
| 材料 | HDT(1.8MPa)の目安 | 無充填からの変化 |
|---|---|---|
| PC-GF30 | 140〜145℃ | +10〜15℃程度 |
| PP-GF30 | 140〜160℃ | +80〜100℃ |
| PBT-GF30 | 200〜215℃ | +150℃前後 |
| PA66-GF30 | 240〜255℃ | +160℃以上 |
| PPS-GF40 | 260〜270℃ | +160℃前後 |
PCだけ、ほとんど上がっていません。
理由は明快です。 非晶性樹脂には結晶構造がないため、いくら繊維を入れてもTgという天井を越えられません。 PC-GF30のHDTがおよそ140℃で頭打ちなのは、PCのTgが145〜150℃だからです。
一方、結晶性樹脂では繊維が結晶の骨格をさらに補強し、融点近くまでHDTが跳ね上がります。
耐熱性をGF化で稼ぎたいなら、結晶性樹脂を選ぶ——これがこの表から読み取れる、実務に役立つポイントです。


耐熱を上げたくてGF入りに変更した結果、反りや外観で苦労する事があります。
GF化すると単純にスペックが上がると思っていると、大きな罠にハマってしまいます。
意匠面や寸法精度とどう折り合いをつけるのか、本当に重視すべきポイントは何であるかを正しく整理し、GF化するべきか、そもそも別の材料を選定すべきかを判断するようにしてください。
HDTは「使用上限温度」ではない
ここが、この記事で最も伝えたい部分です。
HDTは短時間の試験値です。
実際の製品が受ける負荷のうち、次の要素が試験に含まれていません。
| 実使用にあって試験にないもの | 何が起きるか |
|---|---|
| 長時間の連続負荷 | クリープ(時間とともに変形が進む)が進行する |
| 繰り返しの加熱・冷却 | 熱疲労、寸法の累積変化 |
| 薬品・油・洗剤 | ケミカルクラック。耐熱性が実質的に下がる |
| 紫外線・酸素 | 熱酸化劣化。長期で脆くなる |
| 吸水 | PAなどでTgが下がり、耐熱性が実質低下する |
特にクリープの影響は大きく、HDTを下回る温度でも、長時間の荷重で変形が進みます。
HDTは「その瞬間たわむかどうか」しか見ていないという事実を、常に頭においておきましょう。
長期の耐熱性を見る指標は別にある
長期使用の目安としては、UL746BのRTI(相対温度指数) などが使われます。 これは長時間の熱劣化を経て物性が半減する温度を推定した値で、HDTよりかなり低くなるのが一般的です。
耐熱の検討では、次のように使い分けると整理しやすくなります。
| 指標 | 見ているもの | 使いどころ |
|---|---|---|
| HDT | 荷重下での短時間の変形 | 材料同士の比較。第一次スクリーニング |
| Tg | 分子運動が始まる温度 | 非晶性樹脂の実質的な天井を知る |
| 融点(Tm) | 結晶が溶ける温度 | 結晶性樹脂の絶対的な上限 |
| RTI・連続使用温度 | 長期の熱劣化 | 実際の使用温度を決める |
HDTは入口の指標です。 候補材料を絞り込むところまでは有効ですが、最終的な使用温度の判断は、長期指標と実機評価で行うことになります。
デザイン・設計段階で気をつけること
温度と荷重はセットで考える
HDTが荷重条件つきの数値であることは、そのまま設計への示唆になります。
同じ温度環境でも、部品にかかる応力が小さければ変形しにくくなります。 逆に、スナップフィットのように常に応力がかかり続ける部位は、環境温度が低くても長期間に及ぶ応力変形(クリープ)が進む可能性があることを考慮して設計しなければなりません。
耐熱を検討するときは、「何℃まで使えるか」だけでは不十分です。
「何℃で、どれだけの応力が、どれだけの時間かかるか」まで考えて設計に反映する必要があります。
残留応力の解放は、HDTより低い温度でも起こる
見落とされやすいのがこれです。
射出成形品には、成形時の残留応力が必ず含まれています。 加熱すると分子が動けるようになり、この応力が解放されて部品が勝手に変形します。
しかもこの現象は、Tgを大きく下回る温度でも起こり得ます。 「HDT以下だから大丈夫」と考えていた部品が、輸送中の高温環境や塗装の乾燥工程で歪む、というケースにつながります。
対策としては、あらかじめ加熱して変形を先に済ませてしまうアニール処理があります。 成形収縮の記事で触れた後収縮対策と、考え方は同じです。
工程温度を先に確認する
製品の使用温度だけを見て材料を決めると、製造工程で先に壊れることがあります。
| 工程 | 温度の目安 |
|---|---|
| 塗装の焼付け・乾燥 | 60〜120℃程度 |
| はんだリフロー | 240〜260℃程度 |
| 蒸気・熱水洗浄、食洗機 | 80〜95℃程度 |
| 夏場の車内・輸送コンテナ | 60〜90℃に達することがある |
特に「夏場の車内」は見落とされやすい条件です。 ダッシュボード周辺は日射で相当な高温になるため、PPやPBTのような無充填の結晶性樹脂では、A法のHDTを超えてしまう場合があります。


焼付乾燥工程がある塗装部品は特に注意してください。
意匠性を求めるが故に、肝心の機能性に影響が出てしまわないよう、無理のない材料選定を心がけましょう。
意匠面への影響
耐熱不足が意匠面に現れるとき、多くの場合は「割れ」ではなく「歪み」です。
平面が波打つ、合わせ目に段差が出る、パーティングラインが揃わなくなる。 機能上は問題がなくても、外観不良として扱われる典型的なパターンです。
高光沢でフラットな意匠面は、わずかな歪みでも目立ちます。 熱がかかる部位に高光沢面を配置する設計は、耐熱の観点でも慎重に判断したいところです。
耐熱を上げる手段のトレードオフ
| 手段 | 効果 | 引き換えに起こること |
|---|---|---|
| GF入りグレードに変更 | 結晶性樹脂なら大幅に向上 | 異方性による反り、表面のガラス浮き、金型摩耗 |
| 高耐熱グレードに変更 | 確実 | 材料単価の上昇、流動性の低下 |
| 肉厚を上げる | 剛性が上がり変形しにくくなる | ヒケ、サイクルタイム、材料費 |
| リブで剛性を稼ぐ | 変形しにくくなる | 意匠面のヒケ(肉厚比50〜70%以下を守る) |
| 応力を下げる設計に変える | 根本的 | 設計工数、構造の見直し |
耐熱の問題は材料変更で解決したくなりますが、材料を変えると収縮率が変わり、金型の大幅な改造や、最悪の場合は作り直しが必要になる可能性が出てきます。 設計の後半で耐熱不足が判明したときは、まず「応力を下げる」「リブで剛性を稼ぐ」という局所的な形状変更で回避可能かどうかを検討したほうが、傷が浅く済む場合が多くなります。

剛性が上がると、結果的に熱に耐える力も上がります。
想像しやすいように極端な例をあげると、
厚さ1mmの薄板では変形してしまう場面でも、厚さが100mmもあるガチガチの剛体であればなんともないといった感じです。
局所的に耐えられない箇所が出た場合は、まず形状を補強することで改善できないかを考えてみてください。
よくある失敗
- HDTを使用上限温度として扱ってしまう:短時間の試験値なので、長時間の使用ではクリープで変形が進みます
- 荷重条件を確認せずにカタログ値を比較してしまう:ISO/JISにはA法・B法・C法の3種類があり、A法とB法だけでも結晶性樹脂で100℃以上の差が出ることがあります
- ISO/JIS値とASTM値を並べて比較してしまう:試験片もスパンもたわみ量も違うため、直接比較できません
- 製品の使用温度だけで材料を決めてしまう:塗装焼付けやリフローなど、工程温度のほうが厳しい場合があります
- PAのHDTを乾燥状態の値のまま採用してしまう:吸水するとTgが下がり、耐熱性も実質的に低下します
よくある質問(FAQ)
Q. HDTとビカット軟化温度(VST)はどう違いますか?
A. ビカット軟化温度は、断面積1mm²の針を規定荷重で押し当て、1mm沈み込んだときの温度です。局所的な軟化を見ています。一方HDTは、曲げ荷重に対する変形を見ています。針が刺さるかと、梁がたわむか、という違いです。どちらも比較用の指標なので、目的に応じて使い分けます。
Q. 結晶性樹脂のTgが室温以下なのに、なぜ普通に使えるのですか?
A. 結晶部分が骨格として構造を支えているためです。非晶部分が柔らかくなっても、結晶が残っている限り形は保たれます。ただしTgを超えた領域では、クリープが進みやすく、寸法も動きやすくなります。「使えるけれど、精度と長期変形には注意が必要な状態」と捉えるのが実務的です。
Q. GF入りにすればどんな材料でも耐熱性は上がりますか?
A. 結晶性樹脂では大きく上がりますが、非晶性樹脂ではほとんど上がりません。非晶性樹脂の耐熱性はTgで頭打ちになるためです。PCのGF入りグレードのHDTがおよそ140℃で止まるのは、PCのTgが145〜150℃だからです。耐熱をGF化で稼ぐ設計は、結晶性樹脂を前提にしてください。
Q. HDTの数値の何割までなら安心して使えますか?
A. 一律の答えはありません。かかる応力、使用時間、要求される寸法精度によって変わるためです。ただし考え方として、短時間・低荷重ならHDT(0.45MPa)を、長時間・高荷重ならHDT(1.8MPa)をさらに下回る温度を目安にする、という向きの判断になります。最終的にはRTIなどの長期指標と、実機での温度環境試験で確認することになります。
Q. 吸水するとHDTは変わりますか?
A. PAのような吸水する材料では、実質的に下がると考えてください。水分が分子鎖の間に入って可塑剤のように働き、Tgが低下するためです。カタログのHDTは乾燥状態(成形直後)の値であることが多いため、使用環境の湿度が高い場合は、吸水後の物性値をメーカーに確認しておくと安心です。
まとめ
- HDT(荷重たわみ温度)は、一定の曲げ応力をかけて加熱し、規定のたわみ量に達した温度。短時間の試験値
- ISO/JISの荷重条件はA法(1.80MPa)・B法(0.45MPa)・C法(8.00MPa)の3種類。カタログに載るのは主にA法とB法で、結晶性樹脂ではこの2つで100℃以上の差が出ることもある
- ISO/JIS値とASTM値は試験片もたわみ量も違うため、直接比較できない
- 非晶性樹脂はHDTがTgのすぐ下に来る。Tgが実質的な天井になる
- 結晶性樹脂はTgを超えても結晶が骨格として残るため、HDTは融点に近い側で決まる
- GF化でHDTが大きく上がるのは結晶性樹脂。非晶性樹脂はTgで頭打ちになる
- HDTは材料を絞り込む入口の指標。使用温度の決定は、RTIなどの長期指標と実機評価で行う

耐熱性は、材料選定の中でも判断を誤ったときの損害が大きい項目です。
その数値がどんな条件で測られたかを正しく読む習慣が、設計後半での手戻りを防ぐ最も確実な方法になります。
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