この記事で分かること
- 成形収縮率の定義と、なぜ樹脂が縮むのか
- 材料別の収縮率の目安(結晶性樹脂・非晶性樹脂・ガラス繊維入り)
- 同じ材料でも収縮率が変わる理由と、その影響因子
- 金型寸法を決めるときの計算方法と、実務での安全な振り方
射出成形でつくった部品は、金型のキャビティ寸法よりも必ず小さく仕上がります。
この縮む割合が「成形収縮率」です。
そして重要なのは、収縮率が材料によって10倍以上も違うという点です。
ABSなら0.5%程度ですが、PPは1.5%前後、ポリエチレンでは3%を超えることもあります。
同じ形の100mmの部品でも、成形材料が違えば0.5mmと3mmの差が発生してしまうのです。
つまり、材料を変えるということは、金型を作り直す必要性まで考慮すべき事項であるということ。
もし、デザインや開発の後半で「コストが合わないから材料を変えよう」という判断が出た場合、それは、金型の作り直しが必要になる可能性があるということです。

開発終盤の材料変更は、致命的な手戻りや費用損失につながる可能性が高い重大事項。
金型改造では本質的なリカバリーができない場合が多いのが現実です。
材料選定は、事前検証を重ねて慎重に行う必要があります。
成形収縮率とは
定義と計算式
成形収縮率とは、金型のキャビティ寸法に対して、成形品がどれだけ小さくなるかを割合で表したものです。
成形収縮率 S(%) =(金型寸法 − 成形品寸法)÷ 金型寸法 × 100
たとえば金型のキャビティが100.00mmで、
成形品が98.50mmに仕上がった場合、
収縮率は1.5%という具合です。
実務では「1000分のいくつ」という言い方もよく使われます。
1.5%=15/1000です。
材料メーカーのカタログでは「1.2〜1.8%」や「12〜18×10⁻³」といった表記で載っているので、使用する材料の物性票を正確に確認して、金型側の収縮率を逆算する必要があります。
なぜ樹脂は縮むのか
収縮の原因は、大きく2つあります。
1. 熱収縮
溶けた樹脂は200℃前後、金型はおおよそ40〜100℃程度が一般的な温度帯です。この温度差の分だけ、冷えるときに体積が減ります。金属でも起こる、ごく一般的な熱膨張・熱収縮です。
2. 結晶化収縮
これは樹脂特有の収縮要因です。結晶性樹脂は、冷却の途中で分子が規則正しく並んだ「結晶」をつくります。バラバラに絡み合っていた分子が整列すると、同じ量の樹脂がより小さな体積に収まります。この分だけ、余分に縮むのです。
結晶性樹脂の収縮率が非晶性樹脂より大きいのは、この結晶化収縮が上乗せされるためです。


結晶化すると、ゆるかった鎖状がギュッ!と整列する。
このギュッと縮む様子は肉眼では見えないけれど、結果的に体積が小さくなるってことなんだ。
材料別の成形収縮率の目安
以下は無充填(フィラーなし)の材料について、一般的に示される収縮率の範囲です。
非晶性樹脂(収縮率が小さい)
| 材料 | 収縮率の目安 | 備考 |
|---|---|---|
| PS(ポリスチレン) | 0.4〜0.7% | 寸法安定性が高い |
| ABS | 0.4〜0.7% | 汎用材の中では扱いやすい |
| AS(SAN) | 0.4〜0.7% | |
| PC(ポリカーボネート) | 0.5〜0.8% | |
| PC/ABSアロイ | 0.5〜0.7% | |
| PMMA(アクリル) | 0.2〜0.6% | |
| 硬質PVC | 0.1〜0.5% | 収縮率が最も小さい部類 |
| 変性PPE | 0.5〜0.8% |
結晶性樹脂(収縮率が大きい)
| 材料 | 収縮率の目安 | 備考 |
|---|---|---|
| PP(ポリプロピレン) | 1.0〜2.5% | 冷却条件で大きく変動 |
| HDPE(高密度ポリエチレン) | 2.0〜5.0% | 樹脂の中で最大級 |
| LDPE(低密度ポリエチレン) | 1.5〜3.5% | |
| POM(ポリアセタール) | 1.8〜2.5% | 精度部品なのに収縮が大きい |
| PA6(ナイロン6) | 0.6〜1.6% | *乾燥状態の値 |
| PA66(ナイロン66) | 0.8〜2.0% | *乾燥状態の値 |
| PBT | 1.5〜2.5% | |
| PET | 1.2〜2.0% | 結晶化度で大きく変わる |
| PPS | 0.6〜1.4% | 無充填で使うことは少ない |
数値はあくまで一般的な目安です。 実際の設計では、必ず使用グレードのカタログ値(材料メーカーの技術データシート)を確認してください。同じ「PP」でもホモポリマーとブロックコポリマー、MFR(流動性)の違いで値は変わります。
ガラス繊維(GF)入りの収縮率
ガラス繊維を入れると、収縮率は大きく下がります。
繊維そのものは縮まないうえ、樹脂の収縮を機械的に拘束するためです。
| 材料 | 流動方向(MD) | 直交方向(TD) |
|---|---|---|
| PP-GF30 | 0.3〜0.7% | 0.8〜1.4% |
| PA66-GF30 | 0.2〜0.5% | 0.6〜1.0% |
| PBT-GF30 | 0.2〜0.6% | 0.7〜1.2% |
| PPS-GF40 | 0.1〜0.4% | 0.3〜0.7% |
ここで注目すべきは、流動方向と直交方向で2〜3倍の差があることです。
これが後述する「異方性」であり、反りの主要因になります。

ガラスに関わらず、カーボン繊維のフィラー入りのグレードも異方性の収縮が強く発生する。
同じベースの樹脂でも、一般グレードと、フィラー入りグレードは”全くの別物”と考えておきましょう。
収縮率は「一つの値」ではない
カタログに「1.2〜1.8%」と幅で書かれているのは、いい加減だからではありません。
同じ材料でも、条件によって実際に変わるからです。
| 影響因子 | 収縮率への影響 |
|---|---|
| 肉厚 | 厚いほど大きい(冷却が遅く、結晶化が進むため) |
| 保圧 | 高い・長いほど小さい(樹脂が追加充填されるため) |
| 金型温度 | 高いほど大きい(結晶性樹脂で顕著) |
| 樹脂温度 | 高いほどやや大きい |
| ゲートサイズ | 小さいほど大きい(保圧が早く切れる) |
| ゲートからの距離 | 遠いほど大きい(保圧が届かない) |
| 流動方向 | 材料により方向差が出る(異方性) |
特に肉厚の影響は大きく、同じPPでも肉厚1mmと3mmでは収縮率が倍近く違うことがあります。カタログ値は通常2mm厚などの標準試験片での測定値なので、実部品の肉厚が大きく違う場合は、その分の補正が必要になります。
これは設計側にとって、肉厚を均一に保つべき理由がもう一つあるということでもあります。肉厚がバラバラだと、部位ごとに収縮率が違い、寸法も反りもコントロールできません。

成形品の基本は”均一な肉厚”でデザインすること。
肉厚の偏りは、体積の収縮差を生む最大の要因だ。
結果的に、ヒケや反りとして製品に現れる。
外観も悪くなるし、寸法精度を出すことが難しくなってしまう。
美しく、品質の高い成形品を作り出すためには、
”適切な肉厚設計”が重要なポイントだということを意識しておこう。
方向によって収縮率が変わる(異方性)
収縮率は、樹脂が流れた方向(MD:Machine Direction)と、それに直交する方向(TD:Transverse Direction)で異なります。しかも、無充填材とGF入り材では大小関係が逆転します。
無充填の結晶性樹脂:流動方向のほうが縮む
樹脂の分子鎖が流動方向に配向し、冷却時にその方向へ引き戻されるため、一般に MD > TD となります。
GF入り:流動方向のほうが縮まない
ガラス繊維は流動方向に並びます。繊維は縮まないため、流動方向の収縮が強く拘束され、MD < TD と逆転します。その差は2〜3倍に達します。
この方向差が、平板形状で反りを生む直接的な原因です。GF入り材で「設計どおりに作ったのに板が反る」というトラブルの多くは、ここに起因します。
後収縮(アフターシュリンク)
成形直後に寸法を測って合格でも、数日後に測ると縮んでいる——これが後収縮です。
金型から取り出した直後の成形品は、まだ結晶化が完全に終わっていません。その後、常温で放置されている間にも結晶化がゆっくり進み、寸法が変化し続けます。
- 結晶性樹脂で顕著(POM、PP、PA、PBTなど)
- 変化の大半は24時間以内に起こるが、材料によっては数週間続く事がある
- 使用環境が高温な部品では、実使用中に進行することもある(アニーリング効果による残留応力の除去による変化)
そのため、寸法の合否判定は成形直後ではなく、24時間以上経過した後に行うのが原則です。量産の初回検査でこれを守らないと、「トライでは合格したのに市場で寸法が合わない」という事態になりかねません。
高い寸法精度が求められる部品では、あらかじめ加熱してこの変化を先に済ませてしまうアニール(熱処理) を工程に入れる場合もあります。
金型寸法の見込み方
計算式
収縮率 S(小数)、目標とする成形品寸法 L に対して、必要な金型寸法 M は次の式で求めます。
M = L ÷ (1 − S)
実務では簡易的に M = L ×(1 + S) という近似式が使われる事が多いですが、これは厳密には同じ値になりません。
例:製品寸法 500mm、POM(収縮率2.0%)の場合
| 計算方法 | 金型寸法 |
|---|---|
正式な式 500 ÷ (1 − 0.02) | 510.20mm |
近似式(実務では採用が多い)500 ×(1 + 0.02) | 510.00mm |
差は0.20mmです。小物部品ではほぼ無視できる差ですが、大物の成形部品や、収縮率が極めて大きい材料では効いてきます。どちらの式を使っているか、金型メーカーとの間で認識を合わせておくと安心です。
実務の原則:修正できる方向に振る
金型は、削ることはできても、一般的に盛ることは難しい加工物です。
したがって収縮率に幅がある場合、キャビティ(製品が大きくなる側)は小さめに、コア(製品が小さくなる側)は大きめに作っておき、トライ後の実測値を見て削り込んで合わせる——これが基本的な進め方です。
- 収縮率を大きめに見込む → 金型が大きくなる → 製品が大きく出る → 削って修正できない
- 収縮率を小さめに見込む → 金型が小さくなる → 製品が小さく出る → 金型を削って大きくできる
重要寸法については、この「後から追い込める方向」を意識して初期値を決めます。

改造費用の増額は誰だって避けたいですよね。
ただし、一発で仕上げにいこうとするのは危険な行為です。
製品の形状は千差万別。
我々人類は、事前計算で全てが推測できる域にはまだ到達していません。
最後の最後は”現物を観察して合わせ込む”事が最も確実な方法です。
金型の追加削りによる微調整は、最初から必要な期間と費用として見込んでおきましょう。
結果的に最終製品の品質が上がります。
デザイン・設計段階で気をつけること
材料変更は、寸法変更である
冒頭でも触れましたが、これが最も重要です。
ABS(0.5%)で設計した金型でPP(1.5%)を成形すると、100mmの部品が約1mm小さくなります。剛性が高く、高精度を要求する嵌合部品なら、まず正しい状態で組み立てることが出来ません。
材料の選定は、金型手配より前に確定させるのが鉄則です。
「後で材料を変えるかもしれない」段階で金型を発注すると、最悪の場合は金型の作り直しが必要になる事もあるということを覚悟しておく必要があります。
精度が必要な部品では、収縮率の小さい材料が有利
寸法公差の厳しい部品では、収縮率が小さく、かつばらつきの小さい材料が有利です。非晶性樹脂(ABS、PC、変性PPE)や、GF入り材が選ばれるのはこのためです。
一方、POMは「精度部品の定番」でありながら収縮率は1.8〜2.5%と大きい材料です。これは収縮率が大きくても安定して同じだけ縮むため、正しく見込んで金型を作ってしまえば安定した精度が出せるからです。収縮率の絶対値より、ばらつきの小ささが精度を決めます。
また、切削部品としてPOMを使用することも多く、収縮済みで安定した状態のブロックから部品形状を削り出す為、寸法安定性に優れたPOM部品を製造することが可能です。
異種材料の組み合わせに注意
金属インサートを樹脂で包む、あるいは収縮率の違う樹脂同士を嵌合させる設計では、収縮差がそのまま残留応力になります。特に金属インサートの周囲は、樹脂が金属を締め付ける形になり、割れ(インサートクラック)発生の原因にもなります。
意匠面への影響
収縮率の大きい材料ほど、ヒケが出やすく、平面が歪みやすくなります。高光沢のフラットな意匠面を、収縮率2%超の材料で成形するのは、外観品位の面ではかなり厳しい選択であるという事を意識して材料選定を行いましょう。

どうしても収縮率が大きな材料で意匠部品を作り必要がある場合、
表面の形状やテクスチャで、ヒケを目立ちにくくすることができます。
フラットな面や鏡面は、最も外観が悪くなる最悪の条件なので、絶対に避けるべきです。
よくある失敗
- カタログ値をそのまま信じて金型を作る:カタログ値は標準試験片の値です。実部品の肉厚・ゲート・形状が違えば、必ずズレます
- 成形直後に寸法判定してしまう:後収縮を見落とし、量産後に不適合が発覚します
- 1つの収縮率を製品全体に一律で適用する:肉厚が違えば収縮率も違います。重要寸法は個別に見込みます
- GF入り材で流動方向を考慮しない:MD/TDの差を無視すると、寸法も反りも合いません
- 量産開始後の材料ロット変更を軽視する:同一グレードでもロットで収縮が微妙に変わります。重要寸法は継続的に監視が必要です
よくある質問(FAQ)
Q. カタログの収縮率と実際の値がずれるのはなぜですか?
A. カタログ値は、決められた形状の試験片(多くは2mm厚の平板)を、標準的な成形条件で成形した結果です。実際の部品は肉厚も形状もゲート位置も違うため、必ずずれます。カタログ値は「材料同士を比較するための基準」と考え、実部品の値は試作型を用いた現物の成形トライで確認するのが最も確実性が高い検証方法です。
Q. 収縮率を減らすことはできますか?
A. 保圧を高く・長くする、金型温度を下げる、冷却時間を長くする、といった条件で減らせます。ただし保圧を上げすぎるとバリや残留応力を招き、金型温度を下げすぎると転写不良や流動不良を起こします。冷却時間を伸ばすとサイクルが長くなり、樹脂の滞留や生産性の低下につながる可能性が出てきます。条件で追い込める範囲には限界があるため、寸法を条件で合わせ込むのではなく、金型の寸法で合わせるのが正攻法です。
Q. 流動解析(CAE)で収縮率は予測できますか?
A. 予測できます。充填・保圧・冷却を計算したうえで、部位ごとの収縮量や反り量を出力できます。特にGF入り材の異方性による反りは、経験だけで読むのが難しいため、CAEの効果が大きい領域です。ただし解析結果も入力する材料データや解析するデータのパッチサイズ、設定する成形条件に依存するため、デジタルで計算された結果とアナログで製造した最終製品とを、完全に一致させることは事実上ほぼ不可能です。よって、実測との突き合わせは必ず必要な確認作業となります。
Q. 同じ材料でも、メーカーやグレードで収縮率は違いますか?
A. 違います。特にPPは、ホモポリマーとコポリマー、MFR(流動性)、核剤の有無によって値が変わります。「PP」という括りで数値を決めず、必ず採用グレードのメーカーが提供している最新の技術データシートで確認するようにしてください。
Q. 収縮率が大きい材料は、設計上どんなデメリットがありますか?
A. ヒケが出やすい、反りやすい、寸法公差を詰めにくい、の3点です。逆にメリットとして、離型しやすい(成形品がコアから縮んで離れやすい)という側面もあります。PPやPEが薄肉容器で多用されるのは、流動性のよさに加えてこの離型性も理由の一つです。
まとめ
- 成形収縮率は「金型寸法に対して成形品がどれだけ小さくなるか」の割合。(金型寸法 − 成形品寸法)÷ 金型寸法で求める
- 結晶性樹脂は結晶化収縮が上乗せされるため、非晶性樹脂の2〜4倍縮む
- 収縮率は材料で決まる固定値ではなく、肉厚・保圧・金型温度・ゲートで変動する。だからカタログ値は幅で示される
- GF入り材は収縮率が小さくなる一方、流動方向と直交方向で2〜3倍の差(異方性)が出て、反りの原因になる
- 結晶性樹脂には後収縮がある。寸法判定は成形直後ではなく24時間以上経過後に行う
- 金型寸法は
M = L ÷ (1 − S)。収縮率は小さめに見込み、削って追い込める方向に振るのが安全 - 精度を決めるのは収縮率の絶対値ではなく、ばらつきの小ささ
収縮率は、樹脂設計において「材料選定」と「金型寸法」を直接つなぐ数値です。
デザインの初期段階で材料の見当をつけておくことが、後工程での手戻りを防ぐ最も効果的な手段になります。
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